国土交通省資料「近年における自然災害の発生状況」より

実効ある災害リスク低減対策を推し進め、
自助・共助連携を活かす”攻め”の防災へ

【 抜本的・実効的な災害リスク低減の取組みを急げ 】

“攻め”の防災――治水・防災部局とまちづくり部局の連携を

 国土交通省は、近年の水災害の激甚化や水災害リスクの増大を踏まえ、水災害に対するリスクの評価および防災、減災の方向性について検討するため、専門家、有識者からなる「水災害対策とまちづくりの連携のあり方」検討会(座長:中井検裕東京工業大学教授)を本年(2020年)1月8日に設置した。同検討会は4回の会合を経て去る7月16日、「水災害対策とまちづくりの連携のあり方提言(案)」と「水災害リスクを踏まえた防災まちづくりのガイドライン骨子(案)」をとりまとめ公表した。

>>国土交通省:「水災害対策とまちづくりの連携のあり方」検討会

P1 国土交通省資料「近年における自然災害の発生状況」より - 災害常態化、"攻める"防災、<br>「ニュー防災主流化」に期待
国土交通省「水災害対策とまちづくりの連携のあり方」検討会での配布資料「令和元年台風第19号等に係る被害状況」から「近年における自然災害の発生状況」を引用したもの。本紙もこれまで何度も各年時系列で示してきたように、近年わが国ではほぼ毎年、50年に1度クラスの大災害が起こっている。コロナ禍と併せて“ニューノーマル災害”に立ち向かうには、まさに「攻めとしての防災の主流化」を図らなければならない

 提言は、治水・防災部局とまちづくり部局の連携をはじめ、水災害対策と防災を考慮したまちづくりを進めていく方針を打ち出している。また、ガイドライン骨子を2021年3月までにとりまとめ、並行して複数のモデル都市を選定し、ガイドライン骨子に基づいてハザード情報の抽出、リスク評価など、水災害対策を踏まえた検討を実施するとしている。
 治水・防災部局とまちづくり部局の連携――これまでその発想はなかったのか、とはあえて言うまい。防災と福祉の連携でさえ、近年具体化された”防災理念”であり、災害との対峙において、国・行政の施策はこれまで常に”受け身、後追い”との批判はあったのだ。

 ここ数年、わが国は毎年、大規模な風水害に見舞われている。まさに温暖化、気候変動を背景に、かつては数十年に一度と言われた大災害が常態化してきた。災害教訓が風化する間もない近年の風水害事例を以下、改めてリマインド(再確認)しておく――
▼2020年:7月からの梅雨前線による長期・大雨により列島縦断の災害
▼2019年:9月の台風15号(気象庁命名「房総半島台風」:千葉県で住宅被害7万棟など)
 10月の台風19号(気象庁命名「令和元年東日本台風」:関東、甲信、東北地方などで記録的な大雨)。同21号:千葉県で大雨、河川氾濫・浸水・土砂災害
▼2018年:7月豪雨(西日本豪雨):西日本一帯、とくに広島県、岡山県(倉敷市など)に甚大な被害
▼2017年:7月九州北部豪雨:福岡県(朝倉市など)、大分県で被害
▼2016年:台風7号・11号・9号・10号連続来襲(グループホーム被災など)
▼2015年:9月関東・東北豪雨(鬼怒川水害など)
▼2014年:8月豪雨(広島土砂災害など)
▼2013年:10月台風26号による暴風・大雨(東京都大島町土砂災害など)

 ――ちなみに、2011年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震/M9.0)後に起こって気象庁が地震名を命名した、あるいは社会的影響の大きかった被害地震は、2016年熊本地震(M7.3)、2018年大阪北部地震(M6.1)、同年北海道胆振東部地震(M6.7)と、このところ2年ごとに起こっているる。

 これから本格的な出水期、集中豪雨・台風の季節を迎えることは言うまでもないが、いつでも大地震が起こり得るわが国で、新型コロナウイルス感染症への警戒のさなか、「最悪想定」に備えることは喫緊の課題だ。行政はいま、感染症蔓延下での避難所運営マニュアル作成、体制整備を急いでいることは言うまでもない。

“難を避けるのが避難”――“災害リスクを減じるのが防災”

 日本災害情報学(会長=片田敏孝・東京大学大学院特任教授)は去る5月15日、コロナ禍での災害発生時の「避難」について片田会長名で、「避難とは難を避ける行動。避難所に行くことだけが避難ではない」とし、避難所以外の避難(分散避難)も選択肢であることなどを提言した。自治体の避難勧告・指示は、地域・地区一括を対象としており、○万人、あるいは○○万人が対象となるが、もとよりすべての避難者を受け入れる余裕はない。「分散避難」はこれまでもいわば暗黙知であった。

P2 1 気象庁資料より「段階的に発表される防災気象情報と対応する行動」より - 災害常態化、"攻める"防災、<br>「ニュー防災主流化」に期待
気象庁資料「段階的に発表される防災気象情報と対応する行動」より

 いっぽう、山梨大学の秦(はだ)康範・准教授(地域防災)が2018年10月、日本災害情報学会で発表した調査研究結果「全国ならびに都道府県別の浸水想定区域内人口の推移」によれば、全国の河川の洪水による浸水想定区域に住んでいる人は、2015年時点で約3540万人にのぼり、20年前の1995年と比べて4.4%増え、また世帯数では約1530万世帯で、24.9%と大幅に増えたことが明らかになったという。
 秦氏はその動向を分析して、区域内人口が減少している地域を含めて、郊外を中心に浸水想定区域の人口や世帯が増えたと指摘。要因を「浸水リスクの高い地域の宅地化が進んでいるため」とし、「災害リスク地域に住んでいる住民の啓発、人口減少社会にあった災害リスクを踏まえた土地利用を推進する必要がある」とした。

 近年相次ぐ大規模水害を背景に、避難情報がわかりにくいという自治体や住民からの声を受け、国は、自治体が発表する「避難勧告」を廃止して「避難指示」に一本化する方向で検討中だという。災害対策基本法に基づく避難勧告の見直しは1961(昭和36)年の制定以来で、見直し案は今夏をめどにまとめられ、来年の通常国会に改正案を提出する。

 避難に関する情報がわかりやすくなることはいいことだが、抜本的な減災対策は、そもそも浸水想定区域に住む人を少なくする、あるいは次善策として少なくともそういう場所に家を建てるのであれば、耐水性を強化することから始めなければならない。地震に対して新耐震基準という建築基準があり奏功しているように、水害に対して「耐水基準」を設けることも今後検討されるべきだろう(後段で触れる)。

P2 2 宮崎市条例の災害危険区域の指定例より - 災害常態化、"攻める"防災、<br>「ニュー防災主流化」に期待
国土交通省資料「災害危険区域の活用による浸水被害軽減の取り組み状況について」より、上画像:宮崎市条例の災害危険区域の指定例。下:同・「区域内における制限のイメージ」

 本紙既報のように、国交省は省令を改正し、不動産売買や賃貸契約時にハザードマップで物件位置を提示することを、宅地建物取引業法上の重要事項に追加。8月28日から不動産取引業者に対し、契約時に対象物件の水害リスクに関する情報を説明するよう義務化する。あるいは、立地適正化計画で定められる「居住誘導区域」などによって、災害リスク・レッドゾーンから住居を移転させ、新たな建築を規制する仕組みを強化する。
 こうしたまちづくりの新たな動きは、一歩ずつではあるが、抜本的な減災対策への確実なステップであることは確かであり、強力に推し進められなければならない。

〈2020. 08. 03. by Bosai Plus

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