2016年台風10号豪雨災害を教訓に、
岩泉町が防災士養成
徹底した感染防止対策での研修を通じて 防災士になる
――これまでとは別な意味でふくらむ期待
寄稿:髙橋英彦/防災士(仙台市)
東日本大震災をはじめ豪雨、土砂災害などの自然災害を教訓とした防災教育の整備など、各地で震災経験を活かした防災訓練等に取り組む動きが本格化している。2016(平成28)年8月に台風10号による豪雨災害を受けた岩手県岩泉町では、豪雨災害の教訓から防災士養成等を通した住民の防災意識を高める取り組みを行っている。
岩手県沿岸では宮古市、大槌町、釜石市に続き防災士養成を実施した同町では、「災害に強いまちづくり」を目標に2018年度から開講している。今年度は3年間で約200名の町民を対象とした防災士養成計画の3年目となる。
このほど町民会館で行われた岩泉町防災士研修講座には消防団員、自主防災リーダー、町職員ら62名が受講、同町の佐々木重光危機管理監は「4年前の台風10号豪雨ではいたる所で道路が寸断され各地区が孤立した。この教訓から防災・減災の施策も大変重要と考えており、その一環として防災士養成事業を行うことになった。防災士を取得した住民には地域の自主防災組織の一員としての活躍を期待したい」と挨拶した。
今回の防災士研修講座は、新型コロナウイルス感染症蔓延下での開催だけに、開催に臨んでは注意深い感染予防対策がとられた(編集部注:岩手県は県公表資料によれば2020年7月10日10時00分現在、全都道府県で唯一感染者を出していない)。
研修は「3密」を避けた会場の確保、受講者の検温・体調チェック、手洗い消毒、マスク着用、十分な換気など、新型コロナウイルス感染症対策に徹底して対応した形で実施された。研修12科目のうち「避難所の設置と運営協力」は、これまでのグループ形式の演習に変わり、個人ワーク中心で避難所運営に関する課題テーマを考え、受講者全員で意見交換を行う流れで進められた。
受講した住民からは「消防団に入っているので防災士を取得しようと思った」「なにかあった場合になんらかの手助けができるようにという思いから受講した」「2016年台風10号で自宅が被災した。新たな災害に備えて知識を得るため」「地域防災力向上のため一助となる必要性を強く感じた」「避難所運営に関心があり、コロナがなければグループ演習をしたかった」などの感想が寄せられた。
地域防災は「自助・共助が中心で、その地域の自然を正しく理解し、災害の課題を確認すること」「顔の見える人間関係をつくり、コミュニティレベルで相互協力できる体制を確立すること」「震災や気象災害を経験したからこそ活かせる教訓を次世代に伝承すること」が大切である。これまでにない新型ウイルス感染症対策という新たな命を守る課題に対応しながら、いかに地域防災・減災を向上させるか。
コロナ禍での防災士研修を通じて防災士になる人たちの活躍に、これまでとはまた別な意味での大きな期待が寄せられている。
▼編集部注:2016(平成28)年8月の台風10号 観測史上初めて東北地方の太平洋側に上陸した台風が北海道・東北地方に大きな被害をもたらした。とくに岩手県で死者24人、行方不明1人を出し、岩泉町では高齢者施設の近くを流れる小本川が氾濫、施設内に水が流れ込み、入居者の男女9人が犠牲になっている
〈2020. 07. 16. by Bosai Plus〉