日降水量200mm以上の年間日数と1時間降水量50mm以上の年間発生回数の推移

防災は市民目線で官・民連携へ
高齢化・老朽化・激甚化
〜「身の丈レジリエンス」の時代

2020年は、新生・国土交通省誕生から20年目。
その矜持をリアリティチェックに見る。

【 国土交通省の”挑戦”ー市民感覚の身の丈への期待 】

●市民生活充実のソフト重視路線への大転換の兆し(?)

 「2020(令和2)年版国土交通白書」が6月26日に閣議に報告・公開された。国土交通省の施策全般に関する年次報告で毎年公表されるものだ。本年度版のタイトルには「国土交通省20年目の挑戦 ~発足からこれまでを振り返り、今後、国土交通省が向き合うべき課題と方向性を展望~」とある。国土交通省は、防災に深くかかわる組織・機関でもあり、本紙の情報収集活動のなかで国土交通省(気象庁を含む)が発信する各種防災関連情報への目通しは必須となっていることから、特別企画としてこれを取り上げる。
>>国土交通省:令和2年版国土交通白書 国土交通省20年目の挑戦~発足からこれまでを振り返り、今後、国土交通省が向き合うべき課題と方向性を展望~

 2001年1月、それまでの1府22省庁を1府12省庁に再編成する中央省庁等改革が実行された。この中央省庁等改革で国土交通省は、国土の総合的かつ体系的な利用、開発および保全、そのための社会資本の総合的な整備、交通政策の推進、気象業務の発展ならびに海上の安全および治安の確保を図ることを任務とする官庁として、北海道開発庁、国土庁、運輸省、建設省の旧4省庁を統合して誕生した。本年2020年は、国土交通省誕生から20年目にあたるというわけだ。

 本紙は最近号でとくに、国土交通省関連の直近の動きを取り上げる機会が多くなっている。同省は本年1月21日、「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト~いのちとくらしをまもる防災減災~」を立ち上げていて、本紙も注目した。同プロジェクトは「オール国交省」として対策・検討を推進しようというもので、今夏までに国土交通省の総力を挙げて「抜本的かつ総合的な防災・減災対策」をとりまとめるという。
>>防災情報新聞2020年2月2日付け:国土交通省が「総力戦で挑む防災・減災」

 ほかにも、国交省が主導する「コンパクトシティ」や「ウォーカブルまちづくり」、居住区域の災害リスク軽減への政策誘導など(いずれも本紙既報)、これまでのハード対策から市民生活充実のソフト重視路線への大転換の兆しも見受けられ、いわば、これまでの経済成長路線の軌道修正とも受けとめられる方向性が示されている。
 防災メディアとして本紙は、こうした動きが”防災の主流化・日常化”へ向けての国土交通省の具体的な動きとして注目するところだ。国土交通白書に先立って6月12日に「2020年版防災白書」も決定・公開されているが、ここではあえて国土交通省の「20年目の挑戦」に注目してみた。

●新型コロナウイルス感染症への対応

 「2020年版国土交通白書」は、特集として「新型コロナウイルス感染症への対応」を取り上げ、第1部「社会と暮らしのデザイン改革 ~国土交通省20年目の挑戦~」として第1章「これまでのわが国を取り巻く環境変化とこれに対する国土交通省の取組み」、第2章「将来予測される様々な環境変化」、第3章「今後の国土交通行政が向き合うべき課題と方向性」、そして第2部「国土交通行政の動向」の構成となっている。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関しては、これまでの経緯や取組み、外出自粛で観光や交通関係の経営に大きな影響を与えていることなど、国土交通分野への影響と対策を概観し、今後の対応として、全国において緊急事態が解除を受けて、テレワーク、時差通勤、自転車通勤などの働き方やリモート化などによるデジタル・トランスフォーメーション加速化など、社会の変化を前提に、的確に対応していく必要があるとした。

●人口減少と高齢化、国際経済での地位低下というリアリティ

 本紙の印象としては、第1章・第1節で指摘する「人口減少・高齢化と経済動向」での厳しい現実直視が、国土交通省の危機感を示すのと同時に、その危機感によって逆に“鼓舞”される国土交通省の矜持(きょうじ)・意気を感じさせるものがある。厳しい現実直視とは――

①総人口の減少と高齢化率の上昇
 日本の総人口は、戦後から増加が続いていたが、2008(平成20)年の1億2808万人をピークに減少に転じ、2019年10月現在では1億2617万人。年齢構成別では、15~64歳人口(生産年齢人口)が1995年の8716万人をピークに減少に転じ、2019年には7507万人まで減少。いっぽう、65歳以上人口は増加が続き、2019年には3589万人で、これは2000年の2201万人と比較すると63.1%の増加となる。
 これに比例して、65歳以上人口が総人口に占める割合(高齢化率)も2000年の17.4%から2019年では28.4%まで上昇。とくに75歳以上人口の増加が著しく、2000年の900万人が、2019年では105.5%増の1849万人、総人口に占める割合は14.7%となる。
 また、東京圏に日本の人口の29%を占める約3700万人が住むなど東京圏に人口が一極集中、東京都の出生率は1.20(2018年)と全国最小で、東京一極集中の結果、さらに人口減少を加速させるおそれがある。
 いっぽう、外国人労働者は増加傾向にあり、2019年10月末現在で166万人に達している。産業別の外国人労働者数を2009年と2019年で比較すると、全体では2.9倍、製造業で2.2倍の増加、建設業では8.1倍、運輸・郵便業で4.3倍と大きく増加している。

P1 国土交通白書より「わが国の人口の推移と65歳以上人口の内訳」 - 2020国交白書に見る<br>多重・複合課題
国土交通白書より「わが国の人口の推移と65歳以上人口の内訳」

②国際経済で地位低下が目立つ日本
 主要先進国(G7)の高齢化率では、2000年頃は日本と欧州諸国が同程度の水準だったが、その後日本は急速に高齢化が進展し、2005年以降は世界で最も高い水準となっている。これと軌を一にして、国や地域の生産性の高さの目安となる一人当たりの名目GDPの推移をランキングで見ると、日本は2001年に世界5位であったが、その後、順位を下げ、2018年には20位へとランクを落としている。

P2 2 主要先進国の高齢化率推移(国土交通省資料より) - 2020国交白書に見る<br>多重・複合課題
主要先進国の高齢化率推移(国土交通省資料より)

③公共事業 防災・減災、インフラ老朽化対策等の国土強靭化
 国土交通省の公共事業関係費は、政府全体の公共事業関係費の約8割を占める。当初予算の公共事業関係費は、2001年度から2012年度までは減少傾向にあったが、2014年度以降はほぼ横ばいで推移。こうしたなか、相次ぐ自然災害を受けて2018年12月に閣議決定された「防災・減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策」を集中的に実施するため、2019年度と2020年度は、「臨時・特別の措置」として当初予算の増額が図られた。
 今後とも、防災・減災、インフラ老朽化対策等の国土強靭化や経済の活性化等に直結する社会資本の戦略的な整備を進めていくことが不可欠としている。

P2 1 建設年度別橋梁数(国土交通省資料より) - 2020国交白書に見る<br>多重・複合課題
建設年度別橋梁数(国土交通省資料より)

●”大津波”のように押し寄せる多重・複合する困難
 防災は新しいステージへ

 地球温暖化の影響は防災にとって最重要であり、わが国では、洪水や土砂災害を引き起こす大雨や短時間強雨の回数が増加している。
 土砂災害の発生回数は1990~2009年の年間約1000件が、2010年以降、年間約1500件/年と1.5倍に増加し、2018年は過去最多の3459件だったことや、2076~2095年には1980~1999年と比べ年平均気温が最大4.5度上昇し、1日の降水量が200mm以上の年間日数が2倍以上になると予想されることを示し、風水害への危機感をあらわにしている。

P3 1 土砂災害の発生件数の推移 - 2020国交白書に見る<br>多重・複合課題
土砂災害の発生件数の推移
P2 3 観測された日本の平均地上気温の変化 - 2020国交白書に見る<br>多重・複合課題
観測された日本の平均地上気温の変化
P2 4 日降水量200mm以上の年間日数と1時間降水量50mm以上の年間発生回数の推移 - 2020国交白書に見る<br>多重・複合課題
日降水量200mm以上の年間日数と1時間降水量50mm以上の年間発生回数の推移

 自然災害では高齢者の被災が多く、東日本大震災では、多くの高齢者が津波から逃げ遅れ、岩手県、宮城県、福島県での死亡者数(2012年8月31日時点)は60歳以上が66%を占めた。2018年7月豪雨でも、愛媛県、岡山県、広島県の死亡者数は60代以上が約7割を占め、とくに、岡山県倉敷市真備地区での死亡者数は、70代以上が約8割を占めた。
 また、南海トラフ地震や首都直下地震が30年以内に70%程度の確率で発生するとされるいっぽう、2050年には、人口1万人未満の市区町村で人口が2015年との比較で半減すると予想。これらを前提に「激甚・頻発化する災害への対策」、「地域の移動手段の確保」などを向き合うべき課題としてあげている。

P3 2 国土交通白書より「流域治水の概要」 - 2020国交白書に見る<br>多重・複合課題
国土交通白書より「流域治水の概要」

 課題に対する取り組みの方向性として、災害対策では国民目線でわかりやすい抜本的・総合的な対策や、分野横断的に平時から非常時、復旧・復興時まで、行政・企業・住民が連携して対応することで「防災・減災が主流となる社会」の実現をめざすとしている。

 国土交通省は“挑戦”をもって「国民の期待に応える」とするが、わが国ではこれからの20年間に、大きくは地球温暖化を背景に、人口減少、高齢化、インフラ老朽化など多重・複合する困難が”大津波”のように押し寄せる。そこで欠かせない行政・企業・住民の連携についても、“抜本的・総合的な戦略”が求められている。
 地域の自主防災勢力、とくに全国で累計20万を数える防災士の役割についてもまた、新しいステージに向けての活用・活動の戦略が求められていると言えるだろう。

〈2020. 07. 06. by Bosai Plus

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