防災活動の自粛下、迫る複合災害
――コロナ下の防災訓練、関連死など課題が…
【 新型コロナ下の防災――複合災害と”関連死”認定の問題も 】
●改めて問われる防災訓練、災害周年の意義 宮城県沖地震を例に
6月12日は1978年宮城県沖地震から42年。宮城県や仙台市は6月12日を「防災の日」と定め、県民・市民がこぞって災害教訓を確認する日としている。
宮城県はこの日、大規模災害を想定した総合防災訓練を県庁で実施した。「COVID-19」(新型コロナウイルス感染症、以下「新型コロナ」)感染を防ぐため、関係者・県民が一堂に集まって「密」となる従来(3000人規模)の防災訓練のかたちは取れず、参加26機関・団体約200名が電話やウェブ、ネット電話アプリ「スカイプ」などを使って情報を収集・交換、沿岸部の状況把握を行い、避難所での感染症対策や連携のあり方を探る訓練となった。
訓練で想定した地震は三陸沖を震源とするマグニチュード(M)9.0の巨大地震と大津波で、コロナ禍で人員招集や避難所運営が困難になるとの想定のもとでの訓練だ。同訓練ではさらに、地震発生の翌々日に内陸部で豪雨被害が出たという設定を追加している。いわば”三重の複合災害”想定も加えている。
また、仙台市内の小中学校や事業所、公共施設などでは12日、地震発生時に身を守る行動を取る「シェイクアウト訓練」が一斉に行われた。訓練の特設サイトなどを通じ、事前に2万4000人を超える市民が参加を登録したという。
宮城県沖地震(M7.4)はわかっているだけで平均約37年の間隔で複数回起きている宮城県沖地震のひとつで、国の地震本部による直近の評価では、次の宮城県沖地震の30年発生確率が50%程度から60%程度に引き上げられている。
1978年の地震での死者は28人で、このうち18人がブロック塀や石塀の倒壊などによる圧死だったことが特徴的だった。また、住宅約7500戸が全半壊し、国が1981年に建物やブロック塀の耐震基準を大幅に見直す「新耐震基準」策定の契機となった。
ちなみに、2018年6月18日の大阪府北部地震で倒壊したブロック塀で女子児童が死亡し、宮城県沖地震の教訓が40年後のいまも十分に生かされていないと、改めて指摘された。
●複合災害による“余分な死”の主要因はインフル(?)
前項の宮城県防災訓練では、複合災害、それも大地震・津波と新型コロナ蔓延、そして豪雨災害という三重苦を想定した。複合災害に備える行政の動きとしては、静岡県が東日本大震災の教訓を踏まえて2013年に策定した「第4次地震被害想定」と「プログラム2013」が先陣を切っていた。原子力災害(浜岡原発)、富士山噴火が連続した場合などを想定し、避難計画の策定や訓練などを実施した。
防災に関わる58学会で構成される「防災学術連携体」は、市民への緊急メッセージ「感染症と自然災害の複合災害に備えて下さい」を去る5月1日に発出した(本紙既報)。
このメッセージが訴えたのは下記の5点である。
・感染症と自然災害の複合災害リスクが高まっている
・感染リスクを考慮した避難が必要である
・地震・火山災害との複合災害に備えるべき
・気象災害との複合災害に備えるべき
・熱中症への対策も必要
「複合災害」はもちろん、過去にもあった。東日本大震災での地震・津波による原子力発電所のメルトダウンはもとより、避難所では感染症(レジオネラ症や破傷風など)も発生した。また、地震と大雨による土砂災害が加わった「2016年熊本地震」、地震と豪雪が重なった「2004年新潟県中越地震」、さらに「1995年阪神・淡路大震災」以降は、複合災害あるいは二次災害とも呼ぶべき「災害関連死」(災害弔慰金追加認定)が広く知られることになった。
阪神・淡路大震災での死者は6434人(不明者3人)で、そのうち災害関連死は900人(約14%)を超えている。発災時が季節性インフルエンザの流行時期と重なったため関連死が増えたと見られている。災害による精神的ストレスと環境悪化により被災者の健康状態が悪化、それに加えてインフルの流行が重なって死亡する――専門家のあいだでは「余分な死」と呼ばれる人口動態からの視点での「超過死亡」、これも複合災害による人的被害と言うべきだろう。
いっぽう、直近の報道(読売新聞)では、わが国での新型コロナ感染症での「死者」の定義が、自治体ごとに異なることが全国調査で分かったという。つまり、陽性者の死をすべて“感染症死”とするか、医師が老衰やがんを死因としたケースを除外するかなど、自治体によって異なっているという。世界保健機関(WHO)も感染症死の定義を示しておらず、厚生労働省も示していない。言うまでもなく死者数は世界的な関心事項で、第2波、第3波に備える意味でも重要な指標だ。厚労省は現在の死者数は「速報値としてとらえてほしい」としているようだ。
またさらには、“オーバーシュート(”感染爆発)期の医療崩壊に起因する死亡や、自粛要請期、あるいは感染を恐れての閉じこもり生活でのストレス、さらには熱中症との併発での死も、新型コロナ禍の関連死にカウントされる可能性がある。ましてや季節性インフルエンザ流行は日常的な事象である。
今回の新型コロナを機に、避難所運営の感染症対策もまた、基本的な備え、「Withコロナの新しい避難所」となることを覚悟しなければならない。
●「ディスタンシング防災ドリル」として「シェイクアウト」を
2020年度の政府による総合防災訓練は、9月1日「防災の日」に実施予定(5月27日公表)だが、「感染症の拡大が懸念されるような状況のなかでは参加者の安全確保を最優先に考え、必要があれば訓練の延期や中止について検討する。その際、情報通信技術(ICT)等の活用により、防災訓練の目的実現を補完することができるように代替手段を検討。また、訓練の企画に際しては、必要に応じ、感染症対策(避難者の健康状態の確認、避難所の衛生状態の確保、避難所としてのホテル・旅館等の活用等)に留意する」としている。
ちなみに「大綱」は「シェイクアウト訓練」についても推奨している。シェイクアウト訓練は昨年(11月5日実施)わが国で680万人が参加登録した全国的な一斉防災訓練で、本紙は2008年の米国(発祥地)での第1回実施からフォローしてきた。
大綱は、シェイクアウト訓練は「事前登録した不特定多数の参加者が訓練開始合図で一斉にそれぞれの場所で行う自身の安全確保訓練であり、また地域内の学校、職場、店舗等で統一的に行う安全確保訓練、避難訓練。インターネットを活用した科学的地震シナリオに基づく被害想定の周知と事前学習もできる」と紹介している。
感染症蔓延下での「ディスタンシング防災ドリル」として改めて注目されていいだろう。
●「Withコロナの新しい避難所」、「新しい災害支援」 ケーススタディ
本紙は2019年10月3日付け記事で、「フードトラック駆けつけ隊」を紹介した。これは、日本最大級のモビリティビジネス(移動販売)・プラットフォーム「TLUNCH」(トランチ)を展開する株式会社Mellow(メロウ)によるTLUNCHの提携フードトラック事業者と連携した社会貢献プロジェクト、災害時フード支援ネットワークの発足を紹介したものだ。
フードトラックとは、いわゆるキッチンカーなどとくに食品の調理を目的とした設備を備える車両を言う。
Mellowは、被災時の車両の流入を制限する交通規制やフードトラックによるボランティア活動をまとめ、行政や支援団体との調整を行う体制を構築し、さいたま市や豊中市と包括連携協定を締結している。とくに、新型コロナの緊急事態宣言が解除されたいま、「新しい生活様式」を踏まえた地域の活性化・公共空間の活用を目的に、さいたま市や豊中市にある団地や公共空間等を活用して、フードトラックによる実証実験を行っている。まちの飲食店が休業、廃業に追い込まれるなど、地域の魅力が陰るなか、地域の活性化を図る趣旨だ。
フードトラックはテイクアウト方式でかつ屋外での営業のため「三密」を生まない。さらには人口減少や高齢化によって発生する買い物難民などの社会課題の解決策にも有効だ。「いつ、どこに、何のフードトラックがくるのかがわかる、専用QRコード決済を搭載した「TLUNCHアプリ」も提供している。
もちろん、今後起きうる地震や台風などの災害時には、被災地の「あたたかいご飯が食べたい」という思いと「おいしいご飯を届けたい」という思いをつなげることで、災害時フードトラックによる「食のプラットフォーム」を実現し、被災地がより安心して復旧・復興に専念できる環境づくりに貢献したいとしている。
〈2020. 06. 15. by Bosai Plus〉