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文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)
戦後の混乱期だった1947年(昭和22年)9月14日~15日、利根川流域の1都5県(東京、群馬、埼玉、栃木、茨城、千葉)を猛烈な雨を伴う台風が襲いました。有名な「カスリーン台風」です。全国で1100人の犠牲者が出たほか、家屋浸水30万3160戸、家屋の倒半壊3万1381戸と台風としては破格の被害規模となりました(内閣府防災情報のページ 報告書 1947 カスリーン台風より)。
埼玉県でも124カ所の堤防が決壊し、犠牲者86人、負傷者1394人、行方不明者10人の被害が出ています。特に家屋被害が著しく、流失家屋が392棟、全壊726棟、半壊2116棟、床上浸水4万4610棟、床下浸水3万4647棟と記録されています(埼玉県ホームページ、以下HP、「埼玉県地域強靭化計画」参照)。
この台風は様々な点で当時のわが国の世相を反映した災害でした。昭和22年の日本はアメリカの占領下でしたので、アメリカが名付けた「カスリーン(キャスリーン)」という名前が台風名になりました。また軍事用に木々を乱伐したため山林が荒廃していたこと、戦後復興が始まったばかりで国が堤防の維持管理に手がまわらず、治水事業の整備がなされていなかったことが被害拡大の要因として挙げられます。
台風の規模は、9月14日15時時点で鳥島の西南西420㎞の海上付近で中心気圧960hpa(ヘクトパスカル)、最大風速45m/s、秒速30m以上、半径200㎞程度。大きな台風ではあったものの勢力を弱めながら日本に近づいたため風は弱まり、反対に秋雨前線が活発化して雨台風となりました(内閣府防災情報のページ 報告書 1947 カスリーン台風「第2節 利根川における昭和22 (1947) 年9月カスリーン台風」)。総雨量は熊谷で338mm、秩父で611mmの猛烈な雨となり、利根川流域で土砂崩れや氾濫、洪水が続々と発生したのです(国土交通省関東地方整備局 荒川上流河川事務所 「荒川の歴史「昭和22年の洪水」参照)。
その後、GHQの支援を受けながら政府、各自治体の協力のもとで復興を遂げましたが、カスリーン台風は広域災害に対する大きな教訓を残しました。各県個別の災害対策だけではなく広域的な避難や支援体制への整備の必要性、国民に向けた災害情報の迅速な伝達、国の治水事業の促進化などです。
日本一の流域面積を誇る利根川は、現在でも豪雨や台風による氾濫の可能性を内在しているといわれています。国土交通省では2017年に利根川水系の国が管理する19河川ついて、想定最大規模降雨の洪水浸水想定区域を公表しています(国土交通省 関東地方整備局 利根川下流河川事務所 防災・災害情報)。
●料理名:いがまんじゅう(埼玉県)
餡子(あんこ)が入ったおまんじゅうを上からお赤飯で包む、めでたく豪華な「いがまんじゅう」。農林水産省「郷土料理百選」にも選ばれた栄えある埼玉県の伝統郷土料理です(農林水産省HP 郷土料理百選パンフレット)。北埼玉の穀倉地帯に伝わるお菓子で、お祝いの時につくる縁起物だそうです。
さらに調べると、どうやら発祥の地は鴻巣市(旧川里町)。羽生市や加須市(旧騎西町)などを含む県北地域で昔から親しまれ、見た目が「栗のいが」のようなので「いがまんじゅう」と名付けられました(鴻巣市HP いがまんじゅう参照)。
おまんじゅうとお赤飯というご馳走が1つになった理由について埼玉県HP 北埼玉の伝承料理「いがまんじゅう」には「もち米が高価なため、ボリューム感を出そうと赤飯の中にまんじゅうを入れたのがはじまりとも、赤飯とまんじゅうをいっぺんに作って手間を省くという農家のお嫁さんの知恵から生まれたとも言われています」とあります。
見た目はお赤飯のおにぎりのようなので、恐る恐る食べてみると甘くてしょっぱい意外な美味しさに嬉しい驚きを感じます。今回のレシピは「埼玉県「いがまんじゅう」JAほくさい女性部」を参考にさせていただきました。餡子は市販品の粒餡を使用、お赤飯はもち米と小豆、塩少々を入れて家で炊いて用意しました。
★塩気と甘みの絶妙なハーモニー
「農家のお嫁さんが手間を省くために……」と前段で紹介しましたが、つくってみればとっても手間がかかるお菓子だと分かります。結局お赤飯も炊くし、おまんじゅうもつくるのですから。昔は既製品の餡子がありませんので、まずは餡子を炊きます。小豆を一晩漬けてゆでこぼし、砂糖をたっぷり入れて柔らかくなるまでグツグツ煮て餡子づくりをします。
一方でお赤飯を炊き、そして餡子ができたらおまんじゅうつくりです(私は市販の餡子を使用したので、お赤飯が炊けるのを待つだけでした)。餡子を丸めて、おまんじゅう用の皮を伸ばしてクルリと餡子を包み、蒸し器で蒸してできあがりにお赤飯を周りにつけて軽く握って完成です。
餡子を漉し餡にするか粒餡にするかは好みの問題もありますが、お赤飯に負けないような食感の粒餡の方が漉し餡よりも合うと思いました。また、このお料理のポイントはお赤飯の塩気です。少しのしょっぱさが後引くうまさです。
お赤飯とおまんじゅうを一緒にした理由を主婦的な目線で考えると、豪華さを強調できるし、お赤飯を別に炊いて提供するよりももち米が節約できるという理由が一番しっくりきます。甘いものがご馳走だった昔にはおまんじゅうだけでもご馳走、そこにお赤飯を被せたら超豪華な一品で大満足。つくり手の主婦の賢さが詰まった郷土料理です。
〈2019. 05. 07.〉
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