震災復興の成否を占うリアス線
三鉄で「三陸防災復興の旅」へ!
リアス線を「夜行列車」、「三陸プレミアムランチ列車」、「三陸の豊かな地域資源を学ぶ」列車が行く…
東日本大震災から8年、復興のシンボルとして三陸鉄道(以下「三鉄」)リアス線が去る3月23日開通、一般乗車が翌24日から始まった。三鉄の経営は開通前から心配されているが、三陸復興の成否を握るとも言われる。本号では、本紙の三鉄支援の意思表示を兼ねて、「三陸鉄道を勝手に応援する会・三鉄黒字化プロジェクト」座長の齋藤徳美先生(岩手県東日本大震災津波復興委員会・総合企画専門委員会委員長)から特別寄稿をいただき次ページに掲載し、またリアス線旅行企画を紹介して特別構成とする。
三鉄を動脈に コンパクトタウンの連なる三陸へ発進!
宮古〜釜石間を試乗 三鉄の成否は、震災復興の成否、
三陸の未来を左右する――
●[特別寄稿]
齋藤徳美:3月23日リニューアル、三陸鉄道リアス線試乗記
齋藤徳美(さいとう とくみ)
「三陸鉄道を勝手に応援する会・三鉄黒字化プロジェクト」座長
岩手県東日本大震災津波復興委員会・総合企画専門委員会委員長
3月23日、三陸鉄道(三鉄)は、JR山田線の宮古―釜石間55.4kmに移管を受け、久慈市久慈駅から大船渡市盛(さかり)駅まで163km、第三セクターとして日本最長の三陸沿岸を縦貫する鉄道として生まれ変わり、文字通り三陸沿岸の大動脈となった。
三鉄はこれまでも沿岸のなりわいの創生、地域コミュニティーの維持に大きな役割を果たし地域に貢献してきたが、岩手県の沿岸11市町村は三鉄でつながる一つの地域を形成することになり、震災からの復興、未来地域の創生に新たな展開が期待されている。
●車両は、誠実さの白地、三陸の海を表す青、鉄道への情熱を表す赤色の帯
開業前の3月12日、筆者は「三陸鉄道を勝手に応援する会」会長の草野悟氏と共に、新造された36-716号車で、宮古―釜石間を往復、試乗する機会を得た。 三鉄のディーゼル車は“さんりく”にちなんで36型、その710番台の8両がこのたび14億円を投じて新造された。車両の外装は、誠実さを表す白地に、三陸の海を表す青と鉄道への情熱を表 す赤色の帯が入ったおなじみのものであるが、座席は赤を基調とした新鮮かつ落ち着いた色調のボックスシートを基本としており、トイレは体の不自由な方も利用しやすい広い開口扉を備え ている。
試乗車は13時25分、小向広幸運転士の運転で軽快なエンジン音を響かせて出発、これまで の三陸鉄道の北リアス線・南リアス線に比して、きついR300mの急カーブ、25‰の急勾配などがあり、最高速度は85km/hに抑えられているが、流出した線路の大部分はコンクリート製枕木で路盤は安定していて乗り心地はすこぶる快適である。
途中、従来の11駅に加えて新たに八木沢・宮古短大駅と払川駅が開業、ひょっこりひょうたん島をモチーフにした大槌駅、湾内のオランダ島にちなんで風車をつけた陸中山田駅などユニークな駅舎が目を楽しませてくれる。営業ダイヤと同様に各駅に停車、1時間35分の乗車で、15時ちょうどに南リアス線の始点であった釜石駅に到着した。
>>「三陸鉄道を勝手に応援する会・三鉄黒字化プロジェクト」
●鉄路の快適さを満喫しつつも、未来への責務を痛感
震災から8年、被災地の復興は道半ば、土地の嵩上げや高台の整地による宅地の造成も終わっておらず、商店街の復活もまだまだである。運転席脇の窓から広がるパノラマのような鉄路の風景は、鉄道ファンとしてはこの上ない感動であるが、周辺に人の姿が少ないことは大いなる気がかりであった。
リアス線の一貫経営は、小生が未来像として描く、「三鉄を動脈として、インフラを共有して、金平糖の角のように特徴ある生業を有するコンパクトタウンの連なる三陸」の実現に向けた大きなチャンスと期待している。
しかし、観光による収入増など血の出るような経営努力を続けてきたものの、この先住民の高 齢化や人口減は避けられず、三鉄はこれまで以上に厳しい経営を迫られることは間違いない。
三鉄の経営が生き詰まり動脈の鉄路が失われることは、震災復興の失敗、三陸の未来が失われることに等しいと筆者には思える。
鉄道が生きる地域の創生に、自治体は『政策』として三鉄黒字化へ知恵を絞ることを強く要望したい。ダイヤを広報していない試運転列車にも関わらず、手を振ってくれる子供達やお年寄りの背後に多くの住民の期待を強く感じつつ、16時53分宮古駅に帰着した。
鉄路の快適さに浸りつつ、震災復興に携わる一人として、未来への責務を痛感させられる試乗の3時間であった。