大阪市西区役所の「津波浸水どうぶつものさし」より

「防災」にアイデアとデザインを活かせ!
ユニーク発想と万人にやさしい情報伝達をめざして…

【 USGS、UNISDRなどはインフォグラフィックスを活用 】

●地震発生直後の被害推計――インフォグラフィックスで即時情報を発信

 2015年4月25日ネパール地震発生の折り、本紙は同年5月5日付けでその概要を速報で伝え、米国地質調査所(USGS)が発災と同時にネット上で公開した死者・経済被害の予測のインフォグラフィックス(infographics:情報、データ、知識を視覚的に表現したもの)を紹介した。

>>本紙2015年5月5日付け:2015ネパール地震

P1 2 Impact PAGER(USGS資料より) - 伝わる防災メッセージ 防災に効く"インフォグラフィックス"
米国地質調査所(USGS)が発災と同時にネット上で公開したネパール地震での死者・経済被害予測のインフォグラフィック

 それによると、同地震での死者は約1万人、経済被害約100億USドル(約1.2兆円)が推計され、ネパールのGDP(約220億USドル)を超える可能性も示唆されている。さらに、そのインフォグラフィックスには国際的な支援が必要となるレベルも示していた。いま振り返ってネパール地震の被害を見ると、死者は約9000人、被害額約50億USドルであり、発災直後に死者数はほぼ正確に推定されていたことに驚く。

 本項で注目するのは、この「インフォグラフィックス」だ。ネパール地震発生の直後、かなり精度の高い被害推計がなされたことは驚きだが、それがこのようにひと目でわかるかたちで提示されたことへの驚きも大きかった。ちなみに、国連防災戦略(UNISDR)のホームページや資料を見ても、インフォグラフィックスはふんだんに活用されており、本紙は防災における「伝わるメッセージ=防災に効くインフォグラフィックス」に関心を持ち続けることになった。

 わが国でも近年、地震の発災直後に人的被害や建物被害の推計を行う試みはなされているようだが、ある程度精度は確保できても、その”見せ方”についてはいろいろな規制もあってむずかしいようである。ひるがえって風水害については、防災気象情報の伝え方の改善に向けて、いま盛んに具体的に検討されているところだ。

>>内閣府(防災担当):防災気象情報の伝え方に関する検討会

 ウェブ上でのポータルサイト一元化や、”ワンフレーズ・マルチキャスト”(短いフレーズで意味を伝える用語の共通化)などによる「災害情報単純化」など、それでもまだ、言葉の表現法の単純化にこだわる傾向があり、視覚的・グラフィック的、つまりは”インフォグラフィックス”的な単純化にはまだほど遠いようだ。単純化がなかなか進められない背景としては、命にかかわる防災情報を国(内閣府や国土交通省、気象庁などの公的機関)があまりに視覚的・グラフィック的に単純化して発表してしまうと、災害(被害)が起こったときにその情報の”死角”(説明不足、曖昧さなど)を
責められる可能性があるからだろう。そこでどうしても免責事項過多的な文字情報(注釈、解説)が多くなり、単純化はむずかしくなっているようだ。

●着実に進む防災情報のインフォグラフィックス的な伝え方の試み

 とは言え、防災情報のインフォグラフィックス的な伝え方は着実に進みつつある。本紙がこれまで何度か取り上げた弘前大学社会言語学研究室の「やさしい日本語」開発は広い意味でインフォグラフィックスだと言える。冒頭(P.1、図版参照)で紹介した大阪市西区役所は、津波浸水想定を「どうぶつものさし」というユニークなデザインで表し、浸水が想定される地域に「やさしい日本語」と英・韓・中の多言語で掲示している。この「どうぶつものさし」は、公益財団法人日本デザイン振興会主催の「2014年度グッドデザイン賞」を受賞した。

P2 1 大阪市西区役所「津波浸水 どうぶつものさし」より 466x1024 - 伝わる防災メッセージ 防災に効く"インフォグラフィックス"
大阪市西区役所「津波浸水-どうぶつものさし」より

>>弘前大学社会言語学研究室「やさしい日本語」

>>大阪市西区役所:津波の浸水を示す「浸水深サイン(どうぶつものさし)」

 「グッドデザイン賞」は日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の取組みで、対象作品・製品は工業製品からビジネスモデル、イベント活動など幅広いジャンルだ。同賞の受賞作品・製品などはGマーク表示で知られる。この「グッドデザイン賞」は2015年度から、「今後に向けた新たな知見」を発見するための制度として「フォーカス・イシュー」を設置。そして「そなえるデザインプロジェクト」を発足させた。
 そのコンセプトは――「防災の知識を受け継ぐデザイン。災害の発生時に命を救ったデザイン。災害後に人びとを安全へ導いたデザイン。復興を推進したしくみとしてのデザイン。日常から、発災、救出、避難、復旧、復興へ。それぞれのフェーズで役立つデザインの発想やヒント、ガイドラインを『そなえるデザイン』としてまとめ、社会全体で共有し、次のデザインへと活かしていく」としている。

P2 2 日本デザイン大賞「そなえる防災」より - 伝わる防災メッセージ 防災に効く"インフォグラフィックス"
日本デザイン大賞「そなえる防災」より

>>公益財団法人日本デザイン振興会:「そなえるデザインプロジェクト」

●「防災の伝え方」のニューブリードが次つぎと登場

 東京都が都内各家庭に750万部を無料配布した防災ブック「東京防災」のデザインも大きな話題を呼んだが、ほかにも、”防災は、楽しい。”と「イザ!カエルキャラバン!」や「地震イツモ」などで防災イベント企画者・関係者にはおなじみのNPO法人プラス・アーツや、新しい防災を提案する一般社団法人防災ガール、また、ソーシャルデザイン(イシュー)をテーマとする「issue+design」、商品構成に防災志向を打ち出す株式会社良品計画の無印良品(プラス・アーツが防災関連グラフィック情報協力)、コクヨ株式会社の防災ソリューション事業「ソナエル」などがある。また、文京学院大学経営学部(東京都)がインフォグラフィックスによる外国人向け「地震防災マニュアル(文京区版)」を制作、2017年グッドデザイン賞を受賞した。

 このように、これまで欧米と比べると立ち遅れの感もあったインフォグラフィックス志向、デザイン志向の「防災の伝え方」のニューブリードがいま次つぎと登場、注目されているのだ。

>>NPO法人プラス・アーツ

>>一般社団法人防災ガール

>> issue+design

>>無印良品:わたしの備え。いつものもしも。

>>コクヨ株式会社:「ソナエル」

>>文京学院大学:外国人向け「地震 防災マニュアル」

〈2019. 02. 03. by Bosai Plus

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