Photo by くにろく
文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)
岡山県は、国立公園2地域、国定公園1地域、県立自然公園7地域の合計10の自然公園が県面積の1割以上を占め、自然環境保護を積極的に行いながら野外学習やキャンプ場、歩道の整備といった自然とのふれあい・共生を目指しています。
1934年に日本で初めて国立公園として指定された瀬戸内海国立公園は、縄文・弥生時代の生活様式が体験できる鹿久居島など13の島々で成る日生諸島(ひなせしょとう)や日本のエーゲ海と呼ばれる美しい牛窓、景勝地の鷲羽山など見どころがいっぱいです。2憶年前から姿が変わらず「生きた化石」と呼ばれるカブトガニの繁殖地:笠岡湾も同国立公園内あり、古代ロマン漂う風光明媚な土地として人々を惹きつけています(「おかやまの自然公園」ホームページ、以下HP 参照)。
温暖な気候かつ穏やかな瀬戸内海に面し、自然災害の少ないイメージの岡山県ですが、昔から台風・集中豪雨による水害や、がけ崩れなどの土砂災害が発生しています。前回紹介した昭和47年(1972年)7月洪水(豪雨)と昭和51年(1976年)の台風17号の被害は著しく、記録も多数残っています。台風17号は、秋雨前線が大雨を降らし地盤が緩んでいたところへ台風がぶつかり、南東部の東備地域(備前市、赤磐市、和気町など)の279カ所を含めた計916カ所もの土砂災害が立て続けに発生し、19名の方が犠牲になりました(岡山県土木部防災砂防課HP 砂防資料室参照)。
平成に入ってからは1990年(平成2年)に台風19号の本州横断と秋雨前線の南下が重なり西日本の総雨量が1000mmを超え、岡山県内では床上・床下浸水7967世帯の浸水被害が出ています。さらに243カ所のがけ崩れも発生し、全・半壊46世帯、10名の方が亡くなりました。
岡山県は新たに防災ガイド「ももたろうの防災」を作成しました。県の災害リスクを①地震、②風水害・土砂災害、③テロ・武力攻撃と捉え、災害時、有事への備えにとるべき行動をイラスト付きで掲載しています。
また東日本大震災や熊本地震の被災者の声を載せて本当に必要な備えは何かを県民に考えさせるページもあります。「ももたろうの防災」は本編(一般向け)のほかに、要配慮者(高齢者、肢体不自由者、乳幼児、妊産婦、傷病者)や子ども向けに書かれている別バージョンもあり、ポイントを短的にイラストで表現している県外の人にも役立つ情報です。印刷して手元に置きたい防災ガイドです。
●料理名:アキアミと大根の煮付け(岡山県)
秋になると瀬戸内海で大漁となるアキアミはサクラエビ科のエビの仲間です。よく姿が似ているけれど違うのが釣りの餌となるオキアミで、あちらはエビの仲間ではなくプランクトンです(岡山中央魚市株式会社HP参照)。アキアミの大きさは1.5~3㎝で10月~3月まで獲れて旬は11~12月です。岡山では通称アミとも呼ばれています。前回のままかり同様、東京まで生のアキアミが入荷することは少なく、ほんの一時期だけ入ってくるかどうかだと魚屋さんが言っていました。傷みやすいのもその原因ではないかと思われます。
今回は生のアキアミはまだ入荷していなかったので佃煮屋さんで「生アミ」を買いました。商品名が生アミで使用されているのはアキアミです。佃煮なのに「生」が付くのは少し不思議な気がしますがともかく手に入ってほっとしました。
郷土料理で使用する食材は地元で消費されるものが多く、東京や他県まで入ってこないこともしばしばです。今回のアキアミのように鮮度が命で傷みやすいという理由もその一つですが、これだけ冷蔵の技術や流通が発達した現代でも土地の名産、名物はそこに行かないと食べられないという世の中であることを、とてもいいことだと感じています。
鮮度も調理法についても地元にやはり適わないのです。そして旬の時期に大量に獲れる(採れる)魚貝や野菜を保存して長く大事に食べるのもその土地の知恵です。
この連載をすることで郷土料理の多面的な良さが理解できるようになりました。
★小さいながらも一端(ルビ いっぱし)のエビ
佃煮になったアキアミを見て、その小ささに驚きました。この小さなエビを食べるために瀬戸内海には秋から冬にかけてままかりが訪れます。この小ささでは魚はもちろん、人間も大量に食べないと食べた気がしないのではないかなどと思いつつ「アキアミと大根の煮付け(通称アミ大根)」をつくりました。
岡山中央魚市株式会社HPによれば、昔から塩辛やアミ大根として食卓に上ってきたそうです。つくり方は倉敷市HP「食育ポータル アミと大根の煮付け」を参考にしました。岡山県HP「アミ大根」にも掲載されています。
最初に鰹で出汁をとって別にしておきました。それから調理開始です。大根を切って出汁と合わせて表面が透明になるまで煮たら一度取り出します。その後、アミを入れて煮立たせてアクをとるので、大根にはアミのアクが移りません。
私は佃煮を使ったのであまりアクは関係ないのですが(佃煮になった時点でたぶん取り除かれているから)、一応レシピの通りにつくりました。生の水揚げしたアキアミを使用するときには、直接入れずにアクをとってから大根を戻し入れるひと手間が味に非常に影響すると思います。佃煮のアキアミを使用したため、できあがりは色濃くなりましたが見た目よりも食べた時は薄味で、小さいのに一端(一人前)にエビらしき香りが大根に移ったことに感動しました。
これから寒くなり根菜の美味しい季節なので、アキアミが手に入ったら、もしくは佃煮を利用して、作ってみてはいかがでしょう。分葱(わけぎ)を小口切りにして添えると緑が生えて綺麗です。
〈2018. 11. 07.〉
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