上図は、国土交通省「大規模水災害に関するタイムライン(防災行動計画)の流れ」より
○台風接近時の「計画運休」――“ゼロ・アワー”にだれもが安全確保
○交通機関の運休と“出社命令”。一身を賭して出社? 気象情報“ファウルチップ”はOKに。
【 出社命令に従う? 従わない? 命をかけてサバイバル?…… 】
●『日常通り』が金科玉条? 「命がけのサバイバル」に一身を賭するな
朝日新聞9月16日付け「声」欄に「災害直撃時も『日常通り』必要か」という投稿が載った。市場勤務の55歳男性(愛知県在住)の投稿で、大型台風が上陸する早朝、大手コンビニ向け食品配送の仕事に就いていた彼は、台風が上陸する早朝、普段通りの出発を命じられた。先輩から「時速30km以上は出すな、横転するぞ」、「冠水に差しかかったら突っ切れ」などの注意を受け、配送業務に就いたが、運転中は恐怖を覚えるほどの猛烈な風雨で、ほうぼうの道路で冠水し、何台もの車が立ち往生していた。後でニュースで別の業者のトラックが横転したり、倒木に衝突して配達員が亡くなったりしたと知り、「仕事というより、命がけのサバイバル。私たちはそんな危険を顧みず運ばなければならないような緊急物資を取り扱っていたのか。『日常通り』を成り立たせるため、命をかけさせられたとしか思えない」としていた。
>>朝日新聞:(声)災害直撃時も「日常通り」必要か
いっぽう、10月10日付け京都新聞の投稿欄には92歳男性(滋賀県在住)の「計画運休 早い決断に疑問」という投稿が掲載され、「台風に備えて早期の運休を決めた鉄道各社の判断を『かなり先走った感があった』」と批判、ネット上で“小炎上”したようだ。
9月27日付けの共同通信は「出勤やめても影響限定的?」の見出しで、大阪府北部地震(6月18日発生)に関する東京大大学院と調査会社の調査で、勤務先が休みになったり、自主的に休んだりした人のうち、仕事や業務に『支障が出た』と答えた人は約6%」だったと伝えた。
台風接近時や大地震、大雨など自然災害で交通機関の運行が乱れる、あるいは運休し、大都市のハブ駅周辺で大勢の滞留者(通勤困難者)が予想されるとき、出社すべきか否かは、多くの場合、あなたの日常的なレベルでのリスク評価となる。もっとも、なかには「絶対服従やめて声をあげよう」(朝日新聞9月28日付け「声」欄)のように、「残念ながら労働組合のない会社では、労働者は会社の命令に絶対服従。経済大国の『命の値段』は安い、と感じています」ということもあって、四苦八苦、出社義務に応じざるを得ないのかもしれない。
●鉄道事業者「計画運休」対応に東西の温度差?
国土交通省は、台風24号来襲時に鉄道事業者が行った「計画運休」の対応などについて、関係者間で情報共有を行うとともに、対応が適切であったのかを検証、今後の計画運休のあり方について検討するため、「鉄道の計画運休に関する検討会議」を10月10日に開催した。JR旅客鉄道6社と大手私鉄16社、国土交通省鉄道局をメンバーとして、計画運休や運転再開を決定するまでのプロセス、鉄道利用者への事前情報提供の時期や方法などを議論、翌々日の12日には意見交換の概要をとりまとめ(中間まとめ)、公表した。ちなみに、鉄道22社のうち18社が今回、計画運休を実施、影響は首都圏で約45万人、関西で約205万人に及び、利用者からはより早い告知を望む声が上がっている。
時事通信が伝えるところによると会議では、大型台風の接近、上陸などのケースでは安全確保の観点から「路線の特性に応じて、計画運休は必要と考えられる」と認識を共有、まとめ概要では、利用者への情報提供として、計画運休の可能性や開始時期について「極力前に広く公表する」とし、「可能性があることを事前にアナウンスするだけでも効果的」と指摘した。また、計画運休実施後の運転再開については、「安全が確認された後に再開することを明確に伝える」と強調。情報提供の方法としてウェブサイトやSNSなどの手段を活用するほか、多言語での発信も積極的に実施するとした。
国土交通省は今後、自治体への情報提供の方法や、どう表現すれば情報が伝わりやすいかなどを課題として、鉄道事業者と引き続き検討していく。
●タイムラインの『ゼロ・アワー』をめざせ 気象情報に高い精度を期待
この検討会議を受けて、東洋経済(オンライン)は10月11日付け記事で、「浮き彫りになったのは、公共交通の社会的責任と利用者の安全のはざまで台風に揺さぶられた鉄道事業者の決断の温度差だった」とした。
>>東洋経済:計画運休、JR東の情報発信量は西の3割だった
JR東日本の場合、台風上陸前の9月30日時点では台風通過後の翌朝から通常運転する予定だったが、風雨は想像以上に強くなり、全線の安全点検を行ってから運転再開する方針に切り替えたことで、通常運転のための輸送力を通勤時間帯に確保できなかったという。
また、運転休止を表明しなかった東武鉄道は特急列車の一部運休を予定したが、通常運転を続けることを決めていた。しかし、結果としては強風による運休、減速が繰り返され、全線で断続的な輸送障害に陥った。翌朝の運転再開でも倒木に突っ込むなどして数時間にわたって運転がストップした。
いっぽう、関西では計画運休がスムーズに行われ、翌日も特段の問題は生じなかった。JR西日本は9月28日から運休の可能性を示唆。29日には翌日の台風接近に伴う全面運休の可能性を発信し、夕方に計画運休を決定。30日の朝から減便し、正午に全面運休となった。同社は2014年に京阪神地区在来線の全面運休を実施しており、計画運休の先駆けとなった経験が生きたとみられる。同じく関西の南海電鉄は、計画運休の実施時刻から順次運行を取りやめるのではなく、運休予定時間の3時間前から順次運行を取りやめていたため、実施時刻には列車が車庫に入っていた。運休が早ければ、運転再開の準備時間をそれだけ確保できることになるわけだ。
同紙は、「運休をどのように定義し、何を目的として行うものなのか。運休の対象とすべき台風はどの規模か。事前告知をどう行うか。代替輸送はどうするか。どのように運転再開するのか。それらの判断が社内で統一されていないまま、とりあえず『計画運休』という言葉だけが走り出したのが今回の状況に見える」としている。
さらに同紙は「JR西日本は計画運休関連の情報提供を28日から始めている。1日まで4日間で多言語を含むツイッターを活用。プレスリリースの発信回数もJR東日本の3回に対し、JR西日本は9回。実にJR東日本の3倍に達した」。「適切な情報提供のあり方は、計画運休だけではなく地震などの災害時にも役立つ。駅に行くべきか、行かずに待つべきか。その判断ができる情報を、最大限の手段を使って伝えようと努力すること。それも鉄道事業者の役割だ。計画運休への理解は、その中で育つ」と結論づけている――まさに卓見だろう。
台風・風水害は事前に気象情報を入手でき、「タイムライン」(防災行動計画)が活きる。市民の不要・不急の外出を控えさせることはもちろん、帰宅・出勤困難者を出さないよう、また『日常通り』を金科玉条のごとく守る「命がけのサバイバル」に一身を賭するのではなく、タイムラインの『ゼロ・アワー』(リスクがもっとも高まる時間。この時間には、市民はもとより消防団、行政・消防・警察など救助支援側も含めてだれでも安全を確保)に向けて、適切な計画運休と再開に関するタイムラインづくりが必須となる。
蛇足だが、そこで気象情報についてはより精度を高めることが求められる。私たち市民感覚としては、空振りは困るが、“ファウルチップ”は「惜しい!(当たる、当たる! がんばれ!)」で、応援したい。
>>国土交通省:タイムラインを知る