○海に囲まれた日本列島 想定内の災害「塩害」 事前対策を究めたい
○台風一過後(数日後)に停電、交通機関の混乱――災害事象の現れ方(変容、変移)への想像力が問われる
●“想定される災害”には、そのバリエーションへ想像力を駆使した事前対策を
6月(18日)の大阪北部地震、7月の西日本豪雨、続いて“災害級の猛暑”、8月の台風21号、9月(6日)の北海道地震、9月末から10月初めにかけての台風24号、続いて日本海を北東に進んだ大型の台風25号――。日本は5カ月連続で、大規模な自然災害と、それぞれ新たな“想定を超えた災害”に見舞われるという異常事態をみた。
国(第4次安倍改造内閣)はこれら“想定外”を受けて早速、各地の災害復興に取り組む意向を示し、ブロック塀の安全対策(大阪北部地震)、全国の小中学校へのエアコン設置(災害級の猛暑、熱中症対策)、被災者支援に向けた今年度の補正予算案の編成に乗り出している。また、ちょうど改定期にある防災・減災対策の指針「国土強靱化基本計画」(向こう5年間)の改定案に、北海道地震で全域停電(ブラックアウト)が発生したことを受けて、エネルギー供給の多様化や地域内での発電設備の分散化推進を明記したほか、西日本豪雨や巨大台風など豪雨被害を念頭に治水対策の強化も柱として盛り込んだ。
これら対策が、災害が起こってからの後追い対策ではないかといういつもの批判はあるものの(防災省論議を蒸し返すわけではないが)、次なる災害への「事前防災」という意味では、想像力を駆使した予算の使い方を期待したいところだ。多くの災害被害は、これまでの被災経験と共通項の多い想定された災害ではあるが、それぞれの被害は個別環境、個別状況下で起こることから、対策としては、災害事象の現れ方(バリエーション=変容、変移)への想像力が必須ということになる。そうしたなかで、とくに先の台風24号、25号で“もうひとつの台風災害”として耳目を集めたものに「塩害」がある。
●海に囲まれた日本列島――「塩害」の現れ方への想像力をもって事前対策 拡充を
台風24号が東海・関東地方に最接近したのは10月1日だったが、台風一過後、千葉県内のJR外房線や東武野田線で2日夜、送電設備から火花が出ているのを地元住民や運転士が見つけ、一時運転を見合わせたという。3日になって、静岡県御前崎市の中部電力浜岡原発敷地内にある送電用鉄塔で、航空障害灯が消える不具合が発生、また、御前崎、掛川、菊川、牧之原市の一部2万7700戸が一時(最大5時間余)停電した。千葉県船橋市の京成線船橋競馬場駅では3日午後9時42分ごろ、構内にある送電線から突然火が出て停電、京成高砂(東京都葛飾区)~八千代台(千葉県八千代市)間で運行がストップした。
いずれも台風24号の余波の塩害と見られるが、台風24号では太平洋沿岸部で沖合から岸に向かって記録的な暴風が吹き、満潮に近い時間帯に高潮が重なった地域もあった。東電のまとめでは、電気設備に塩分の付着が確認されたのは静岡、神奈川、東京、千葉、茨城の5都県に及んだ。塩害は農家も襲い、強風でビニールハウスなども壊れ、千葉県銚子市の畑ではキャベツやダイコンの葉が傷み、黒や茶色に変色した。
塩害はもとより台風のみに特徴的な被害ではなく、広く一般的に土壌中や空中の塩分によって農作物や建造物、施設などが被害を受けることを言う。土壌中の塩分の濃度が高くなるために生ずる塩土害と、強い風によって海水の飛沫が吹き上げられて内陸に運ばれることによる塩風害または潮風害に大別されるが、台風での塩害は後者による。
塩害の代表的な事象としては、植物、農作物を枯らしてしまうことがある。また、現代社会では、送・配電線の碍子(がいし)の絶縁機能を低下させて停電などを起こす。通常、塩分が植物や送電線に付着した直後に強い雨が降ると塩分は雨で洗われて被害は減少するが、今回の台風24号はいわゆる“風台風”で、塩分が残って台風通過後に碍子表面に電気を通しやすい塩水がついた状態が生まれ、ショートしたようだ。
海水塩に由来する塩害は、通常は海岸から数kmまでの地域で生じるが、台風の強風などにより海岸から遠く離れた内陸部まで被害が及ぶ場合もある。塩害はいわゆる想定外ではなく、これまでも台風での塩害が幾度も起こっている。「平成」に入ってからの主な塩害をもたらした台風では、1991年(平成3年)の台風19号(瀬戸内海沿岸部から内陸40kmにかけて停電など)、2002年(平成16年)台風15号(秋田県や山形県などで農作物被害)がある。
塩害対策としては、耐塩害電気設備の開発や天気予報の活用による事前の備えの体制整備、長期的には防風林・防潮林の整備などがある。今回、農林水産省は「除塩」のための水を確保するよう呼びかけた。
想定された災害であるだけに事前対策の拡充を図りたい。